平均故障間隔(MTBF)の理解

Mean Time Between Failures
平均故障間隔(MTBF)は、製品データシートでよく見られる一般的な指標で、信頼性と耐久性の証として提示されていることがよくあります。しかし、広く使用されているにもかかわらず、MTBFは工学分野で最も誤解されている数値の1つでもあります。

多くのエンジニアや意思決定者は、異なるサプライヤーのMTBF値を額面通りに受け取ります。そしてこの値を直接比較します。これは一見、論理的に思えます。数値が高いほど、信頼性の高い製品という論理です。しかし、そう簡単ではありません。この方法は直感的ですが、誤った結論や不適切な選択につながる可能性があります。なぜ数値の比較が見かけほど単純ではないのか、そしてなぜより深く掘り下げることが重要なのかを解き明かしていきましょう。

MTBFが実際に示すもの

MTBFはシステムにおける故障間隔の統計的な推定値です。これは運用期間中の故障率が一定であると仮定しています。
通常、時間単位で表され、以下のような規格に基づいて計算されます。
  • Telcordia SR-332(電気通信機器で一般的に使用)
  • MIL-HDBK-217(軍事・航空宇宙分野で使用)
  • IEC 62380/61709産業用途で一般的に使用)

これらの規格は以下のような変数を考慮しています。
  • 環境要因(動作温度など)
  • 部品故障率
  • システム設計手法(部品のディレーティングなど)
  • 負荷と熱ストレス

MTBFは特定の条件下での予想される信頼性の目安を提供することはできますが、それがすべてではなく、製品の実際の性能を保証するものでもありません。サプライヤーにより異なる計算方法を使用している場合、状況はさらに複雑になり、MTBFの値を比較することが不可能になります。

なぜMTBFの比較が誤解を招く可能性があるのか

1. 異なる規格、異なる結果

それぞれのMTBF計算規格には独自の前提条件があり、これが結果に大きな影響を与える可能性があります。
例:
Telcordia SR-332は比較的安定した通信グレードの環境を想定しており、より過酷な産業用途や軍事条件には適用できない可能性があります。
MIL-HDBK-217はより慎重な前提条件を使用しており、その結果としてMTBF値が低くなる傾向があります。
IEC 62380は温度サイクルなど、他の規格では省略される考慮事項を含む場合があります。
これらの異なる規格を使用して計算されたMTBF値を比較することは、りんごとみかんを比較するようなもので、基本的な前提条件が全く異なります。

2. 楽観的な条件が結果を誇張する

サプライヤーは時として、より高い数値を示すために、理想化された条件下で平均故障間隔を算出することがあります。
例:
  • 製品が安定した温度の低ストレス環境で動作すると仮定する。
  • 電力サージ、機械的振動、温度変動などの実世界の要因を無視する。
  • 一般的な使用状況を反映していない可能性のあるディレーティング部品(最大定格をかなり下回って動作)に依存する。

サプライヤーAがサプライヤーBよりも楽観的な仮定をした場合、実際の条件下での信頼性が劣っていたとしても、書類上ではMTBF値が良く見えることになります。

3. 部品の品質と設計思想

製品の信頼性は単に数値の問題ではありません。部品の品質とどのように設計されているかが重要です。
  • あるサプライヤーは、コスト効率を優先し、それが部品へのストレスを増加させ、信頼性を低下させている可能性があります。
  • 別のサプライヤーでは、より良い部品を使用している可能性があります。これにより長期的な性能は向上する可能性がありますが、コストは高くなることがあります。

MTBF計算はこれらの微妙な違いを捉えきれないことが多く、製品の本当の堅牢性を判断することが困難になります。

4. 異なる故障率データベース

サプライヤーは、MTBFを計算する際には、部品故障率データベースに頼っています。これらのデータベースの精度は様々です。
  • 一部のサプライヤーは、実際の部品性能を反映していない一般的な故障率を使用しているかもしれません。
  • 他にも、古いデータや過度に楽観的なデータに頼っていることもあります。

あるサプライヤーがより良い(またはより悪い)故障率データを使用した場合、製品が他の点で類似していても、MTBF値は大きく異なる可能性があります。

MTBFの誤解によるリスク

平均故障間隔の誤解や過大評価は、いくつかの問題につながる可能性があります。
高いMTBF値に対する過信:高いMTBFは素晴らしく見えるかもしれませんが、基本的な仮定に欠陥がある場合、信頼性は保証されません。
不適切な購買判断:実際には、より低いMTBF製品が、特に過酷な条件下ではより堅牢であることがあります。
実世界のデータを無視することで誤解につながる可能性:実際の現場での性能と保証返品率が、信頼性をより良く理解するのに役立ちます。これは理論上のMTBF値に頼るよりも正確です。

MTBFデータを賢く使用する方法

MTBFデータを最大限活用し、その落とし穴を避けるためには、以下のベストプラクティスを考慮に入れてください。

1. MTBF計算の詳細を理解する

計算に使用された規格と、どのような仮定(動作条件、部品品質など)が行われたかを常に確認してください。RECOMのデータシートでは、MTBF計算条件が明確に記載されています。例えば、「MIL-HDBK-217F、GB、+25℃準拠」とは、使用された規格が軍用ハンドブック第217号F版で、制御された環境条件がGround Benign(地上温和環境)、周囲温度が25℃であることを意味します。

RECOMデータシートにおけるMTBF計算条件

2. 比較可能なMTBF値の検証

同一の規格を用いて同一条件下で算出されたMTBF値のみを比較してください。競合他社が同じ計算の前提条件を使用している場合は、MTBF計算を比較することができます。しかし、異なる温度や環境条件を選択している場合は、結果は同じにならない可能性があります。

これは、平均故障間隔の計算が、環境(温度、衝撃、振動など)、部品間の相互作用(相互干渉や相互加熱など)、品質(部品の許容誤差、品質管理など)といった複数の動作に影響を与える要因に、部品の基本的な信頼性を掛け合わせて算出されるためです。例えば、最も重要な変数の1つは品質係数です。RECOMはサプライヤー監査を実施しており、製造施設はISO認証を取得しています。これは部品の性能が一貫していることを意味します。

3. 実世界の信頼性指標の考慮

フィールド故障率、保証返品、稼働時間などの実際の性能指標を評価してください。MTBFは予測ツールです。電源の故障率が2年間の使用後に1%未満である必要がある場合、必要なMTBFは(2 x 365 x 24)/ 1% = 175万時間となります。

例えば、アプリケーションがコンパクトな5W AC/DC電源を必要とし、RECOMのRAC05-K/277シリーズ を使用する場合(25℃でのMTBF = 225万時間)、設計者は2年間の実働後の電源によるフィールド故障が100台中1台よりもはるかに少なくなる(実際には設置ユニット250台中1台に近い)ことに自信を持てます。

4. アプリケーションの考慮

MTBFが低い製品でも、お客様の環境(極端な温度、振動など)に適した設計がされている場合、特定の使用事例では優れた性能を発揮する可能性があります。上記のRAC05-K/277の例に戻ると、+40℃での平均故障間隔は180万時間であり、周囲温度が上昇しても、2年間の実働後のフィールド故障率は設置ユニット100台中1台未満を維持できると予想されます。

この部品は軍用規格の衝撃・振動規格MIL-STD-202Gに適合し、動作温度範囲は-40℃~+90℃で、過電圧カテゴリーOVCIIIの認証を取得しています。これらの追加仕様は、いずれもMTBF値への信頼性を高めるものです。

平均故障間隔と信頼性に関する最終考察

MTBFは管理された条件下での信頼性を予測する有用なツールですが、実際の性能を明確に測定するものではありません。文脈を理解せずにサプライヤー間のMTBF値を直接比較することは、役に立たないばかりか、誤解を招く可能性もあります。MTBFにこだわるのではなく、信頼性の総合的な評価に焦点を当てましょう。実際のデータ、設計手法、アプリケーション固有のテストを考慮してください。表面的にとどまらず、より深い比較をすることで、より賢明な判断を下し、本当にニーズに合った製品を見つけることができます。
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