AIデータセンター電源システム: 800VDC、SiC、GaNが電源アーキテクチャにもたらす変革

高度なパワーエレクトロニクスを備えたAIデータセンターの電源インフラ
大規模なAIデータセンターでは電力の浪費が許されないため、効率の最大化を目指して電源システムの設計が急速に進化しています。 高電圧直流(HVDC)アーキテクチャとワイドバンドギャップ(WBG)半導体は、高密度AIインフラの配電と電力変換の進化を支える重要な要素になりつつあります。

従来型のデータセンター電源システムがAIラックにとって非効率である理由とは?

250kW未満のサーバーラック向けの従来のAIデータセンターAC配電アーキテクチャ
図1:250kW未満のラック向けの一般的なAC配電データセンターアーキテクチャ
従来のAC電源システムでは、複数の変換段で電力損失と発熱が生じるうえ、低電圧・大電流の配電に大きな導体断面積が必要となるため、AIラックの電力が増加するにつれて効率が低下し、拡張も難しくなる可能性があります。

従来のデータセンターの電力供給では、変電所の変圧器を使用し、送電線の高電圧交流を、北米では480VAC、その他の地域では400/415VACなど、地域に応じた三相交流の配電電圧に変換する場合があります。 バッテリーバックアップユニット(BBU)やエネルギー貯蔵システム(ESS)を使用すると、施設の電源からラックまでの間に変換段が追加される場合があります。

各変換段では電力損失と発熱が生じる一方、さらに下流で必要となる低電圧・大電流の配電では、必要な導体量も増加します。 続いて、中間段の電源とポイントオブロード電源が、供給されたバス電圧を、プロセッサ、GPU、その他の電子負荷が必要とする低い電圧に変換します。

個々のAIラックの電力がメガワット級に近づく中、業界では、こうしたラックに対応する電源アーキテクチャの開発が進んでいます。拡張に伴う課題の一例として、NVIDIAは、54VDCで1MWを供給する場合、ラックのバスバーだけで最大200kg(440ポンド)の銅が必要になる可能性があると推定しています(出典:NVIDIA Technical Blog「NVIDIA 800 VDC Architecture Will Power the Next Generation of AI Factories」、https://developer.nvidia.com/blog/nvidia-800-v-hvdc-architecture-will-power-the-next-generation-of-ai-factories/)。データセンター全体の規模では、こうした導体の必要量が、電力損失、熱管理、利用可能なスペースと並ぶ重要な設計上の検討事項となります。

銅導体による配電のコストと物理的な要件に加え、低電圧・大電流機器から生じる熱が、主に2つの方向への技術開発を促しています。電流と必要な導体量を削減する高電圧DC配電と、電力変換性能を向上させるワイドバンドギャップ半導体です。

高電圧DCバスアーキテクチャへの移行

大電力サーバーラック向けの将来の800VDC AIデータセンター電源アーキテクチャ
図2: 800VDC配電と下流側の中間バス変換によって進化するデータセンター電源アーキテクチャ
高密度AIインフラ向けに登場しつつあるアーキテクチャの1つでは、800VDC配電バスを使用して、ラックの電力が非常に大きい場合の電流を低減します。 配電電圧を高めることで、同じ電力をより低いDC電圧で配電する場合と比べて、必要な導体量とI²R損失を削減できます。 バッテリーバックアップユニットとエネルギー貯蔵システムは本来DCベースであるため、不要な変換段を減らしながら、DCを中心とした電源アーキテクチャにエネルギー貯蔵を統合する機会がさらに広がります。

その差の大きさは、I = P/Vから直接求められます。冗長化とディレーティングを考慮する前の値では、54VDCで1MWを配電する場合の電流は約18.5kAですが、800VDCで同じ電力を配電する場合は1.25kAとなります。 この電流低減効果は、ラックの電力がメガワット級に近づくにつれて、高電圧配電が有力な選択肢となる根本的な理由の1つです。

この移行によって、下流側の電圧変換が不要になるわけではありません。 800VDCのラックバスから、約48VDC、50VDCまたは54VDCに変換する中間変換段に給電し、その後さらに12VDCへ、最終的にはプロセッサやGPUが必要とする低電圧へと変換できます。 これらの変換段は、従来の1U CRPS/M-CRPSホットスワップ対応サーバー電源とは区別する必要があります。

変換効率の向上に寄与する電源部品とは?

ワイドバンドギャップ半導体、特に炭化ケイ素(SiC)と窒化ガリウム(GaN)は、その特性を生かせるスイッチング用途において、従来のシリコンデバイスよりも電力変換性能を向上させるために、採用が拡大しています。

ワイドバンドギャップ材料は、高い絶縁破壊電界強度や高速スイッチング能力など、高効率の電力変換に有利な特性を備えています。 トポロジーや動作条件によっては、SiCおよびGaNデバイスは、スイッチング損失の低減、スイッチング周波数の引き上げ、電力密度の向上に貢献します。 これらの特性は、高電圧の電力変換から中間バスやポイントオブロードのアーキテクチャまで、複数の変換段で有用です。

ワイドバンドギャップの詳細

導体、半導体、絶縁体におけるバンドギャップの比較
図3:絶縁体、半導体、導体におけるバンドギャップの模式図
材料内の電子は、原子の伝導帯にある場合にのみ電気伝導に寄与します。銅などの導体では、価電子帯と伝導帯が重なり合っているため、電子が自由に移動できます。 絶縁体ではバンド間のギャップが非常に大きいため、通常の条件下では電子はこのギャップを越えられません。 半導体は導体と絶縁体の中間に位置し、そのバンドギャップは、系にエネルギーを加えることで電子が越えられる程度に狭くなっています。

シリコンのバンドギャップは約1.1eVですが、SiC(約3.3eV)とGaN(約3.4eV)は、その約3倍のバンドギャップを持つため、ワイドバンドギャップ材料と呼ばれます。 この広いバンドギャップによって、より高い絶縁破壊電界強度が得られ、より高い電圧、温度、スイッチング速度での動作が可能になります。

SiCとGaNの広いバンドギャップと、それに関連する材料特性により、高周波・高電圧の電力変換に有利となり得る電気的条件下での動作が可能になります。

適切なコンバータトポロジーでは、これらの特性によりスイッチング損失を低減し、より高いスイッチング周波数での動作を実現できます。 高周波化によって磁性部品や受動部品を小型化できる一方、半導体損失の低減によって冷却要件を緩和できます。 実際の効率と電力密度の改善効果は、コンバータトポロジー、電圧レベル、スイッチング周波数、熱設計、動作点によって異なります。
シリコン、SiC、GaN半導体の電力およびスイッチング周波数の比較
図4:Si、SiC、GaNパワー半導体の代表的な適用範囲

SiCおよびGaNの利点と要件

SiCとGaNを、相互に置き換え可能なWBG技術として扱うべきではありません。 SiCは特に高電圧・高電力の変換段に適している一方、GaNは非常に高いスイッチング周波数と磁性部品の小型化を重視する用途で有力な選択肢となります。 したがって、適切なデバイス技術は、バス電圧、トポロジー、スイッチング周波数、熱設計、必要な電力レベルによって異なります。

スイッチング周波数を高めることで、磁性部品を小型化しながら、より大きな変換比を実現することもできます。 例えば、基板レベルの電源アーキテクチャでは、まず中間バスの約48VDCまたは54VDCを12VDCに変換し、その後ポイントオブロード段で、プロセッサやGPUが必要とする、さらに低い電圧を生成する構成が考えられます。 新たなアーキテクチャでは、急激に変動するAI負荷に必要な過渡応答を維持しながら、変換段数を削減する方法も検討されています。 スイッチング周波数を高めることで、磁性部品の小型化や負荷過渡変動への応答高速化も可能になりますが、これらの効果はトポロジー、部品、システム設計に左右されます。

スマート電源機器とデジタル制御

保守、稼働率に関する要件、作業効率の向上を背景に、よりスマートな電源機器への移行が進んでいます。 電源デバイスを監視・制御するデジタルインターフェースを追加することで、電源は単なる受動的な変換部品ではなく、より広範な電力管理システムの能動的な構成要素となります。 オープン規格のPower Management Bus(PMBus)は、I²Cベースの通信プロトコルで、対応する電源デバイスの監視、設定、制御をサポートできます。 これらの機能をより広範な電力管理システムの一部として実装することで、負荷管理、診断、リモートでの障害対応などに役立てることができます。

将来を見据えた設備構築

AC配電とラック側の800VDC電源アーキテクチャを組み合わせた移行期のAIデータセンターアーキテクチャ
図5: 施設の既存AC配電とHVDC対応サーバーラックを組み合わせた移行期の電源アーキテクチャ
AIデータセンターでは、もはや純粋な演算能力だけが重要なのではありません。銅や冷却用水といった資源に加え、電力系統の供給能力も、環境面・物理面で限界に近づいています。 そのため、インフラの規模拡大を継続するには、熱負荷、電力消費、材料使用量の削減が重要な検討事項となります。 現在の設備では、下流側のすべてのシステムが現時点で対応できていなくても、将来の電源アーキテクチャの変更に備える必要があります。

将来の高密度AI設備に向けて、業界ではエネルギー貯蔵を高電圧DC配電とより緊密に統合するアーキテクチャの評価が進められています。 新たなアプローチの1つとして、800VDCラックバスに併設する形で、ラック近傍にBBUまたはESSによる蓄電容量を確保する方法があります。これにより、大電力時の電流を低減し、中間変換段の一部を省略できる可能性があります。 こうしたアーキテクチャは現在、既存のACおよび48/54VDC電源システムを全面的に置き換えるのではなく、それらと並行して進化しています。

DC配電電圧の高電圧化に伴い、設計および安全面での要件も追加されます。 800VDCシステムでは、適切な絶縁協調、沿面距離と空間距離、直流定格に対応したコネクタと保護装置、接地方式、保守手順を考慮する必要があります。 これらの要件は、実際のシステムトポロジーや適用規格に依存し、バス電圧だけから導き出すことはできません。

移行期のアーキテクチャの一つでは、施設の既存ACインフラを維持しながら、ラック側に800VDC配電バスを採用することで、将来のAIシステムで想定されるラック電力の増大に対応するための移行経路を提供します。 このモデルに移行するには、施設の既存AC配電から供給される交流電力を高電圧DCバス向けに変換するラック側の電源システムが必要になる場合があります。システム構成によっては、この電源システムにラック近傍のバッテリーバックアップやエネルギー貯蔵設備を統合することもできます。

まとめとRECOM製品

AIラックの電力が急速に増大するにつれ、従来のデータセンター電源アーキテクチャは、電流、導体サイズ、熱管理、電力変換効率の面で実用上の限界に近づいています。 ラック電力が増大し続ける中、より高電圧のDC配電とワイドバンドギャップ半導体が、次世代AIインフラに向けた重要な開発の方向性となっています。

こうした開発によって実現するアーキテクチャは、単一の変換技術に依存するものではありません。 高電圧配電、中間48/50/54VDCバス、基板レベルのDC/DC変換、ポイントオブロードでの電圧安定化は、施設からプロセッサやGPUへ効率的に電力を供給するうえで、それぞれ異なる役割を担います。

RECOMは、基板レベルの電力変換が特に重要となる領域、すなわちSiCおよびGaNスイッチ向け絶縁型ゲート駆動電源、基板レベルのDC/DC変換、ポイントオブロードでの電圧安定化、補助電源において、これらのアーキテクチャを支えます。 これらのソリューションは、専用のCRPS/M-CRPSサーバー電源や大電力800VDCラック用パワーシェルフを置き換えるものではなく、施設およびラックレベルの電源アーキテクチャ全体を補完するものです。

SiCおよびGaN向け絶縁型ゲート駆動電源

SiCおよびGaNスイッチが効率面での優位性を発揮するには、ゲートを適切に駆動する必要があり、その出発点となるのが絶縁型ゲート駆動電源です。 SiC MOSFETは通常、+15V/−3Vや+20V/−5Vなどの非対称な駆動電圧を必要とする一方、GaN HEMTは通常、+6V付近で最適なスイッチング性能を発揮します。 RECOMは、これらの要件に最適化された絶縁型DC/DCコンバータ製品群 を提供しています。SiC MOSFET向けにはRxxP21503シリーズ(+15V/-3V、絶縁耐圧6.4kVDC、絶縁容量<10pF)とRxxP22005シリーズ(+20V/-5V)、GaNデバイス向けにはRP-xx06、RxxP06および表面実装型のRA3シリーズがあります。RECOMのゲート駆動用DC/DCコンバータの概要をご覧ください。

スイッチング波形の立ち上がり・立ち下がりが速くなるほど、要求される性能も厳しくなります。 絶縁バリアを介した寄生結合容量は、コモンモード過渡電流の経路となり、ゲート信号の乱れ、誤トリガー、電磁干渉の一因となる可能性があります。 したがって、ゲート駆動電源の特性を評価するには絶縁耐圧だけでは不十分であり、結合容量とコモンモード過渡耐性も考慮する必要があります。

基板レベルのDC/DC変換とポイントオブロード

基板レベルでは、RECOMのDC/DCコンバータは、制御、通信、メモリ、FPGA、および補助電源レール向けの中間段およびポイントオブロード段の電力変換要件に対応できます。48/54V系の中間電力変換から、12V入力の小型ポイントオブロード電圧安定化まで、各コンバータ製品群がさまざまな入力電圧および電流要件に対応します。 これらのモジュールは、GPU専用の多相電圧レギュレータやラックレベルのパワーシェルフを置き換えるものではなく、補完するものです。

RECOMがAIインフラ設計をどのように支援できるかをご確認ください。 SiCおよびGaN向けのRECOM絶縁型ゲート駆動用コンバータや、基板レベルおよびポイントオブロード電源向けのRECOM DC/DCコンバータ製品群をご覧ください。また、お客様のアーキテクチャに適したソリューションの選定については、RECOMのアプリケーションエンジニアにお問い合わせください 。
アプリケーション
  シリーズ
1 RECOM | RA3 Series | DC/DC, SMD (pinless), 3W
Focus
  • 3W isolated DC/DC converter
  • High 5.2kVDC/1min isolation
  • Wide operating temperature range: -40°C to +85°C
  • Ideal for IGBT/Si/SiC/GaN gate drive power
2 RECOM | RP-xx06 Series | DC/DC, THT, 1W, Single Output
  • 6V Output for GaN driver applications
  • Pot-Core transformer with separated windings
  • High 5.2kVDC isolation In compact Size
  • Low isolation capacitance (10pF max.)
3 RECOM | RxxP06 Series | DC/DC, THT, 1W, Single Output
  • 6V Output for GaN driver Applications
  • Pot-Core Transformer with separated windings
  • High 5.2kVDC Isolation in compact size
  • Low isolation capacitance (10pF max.)
4 RECOM | RxxP21503 Series | DC/DC, THT, 2W, Dual Output
  • +20/-5V & +15/-3V asymmetric outputs for SiC driver applications
  • Qualified with 65kV/µs @ Vcommon mode =1KV
  • +15/-9V asymmetric outputs for IGBT driver applications
  • Pot-core transformer with separated windings
5 RECOM | RxxP22005 Series | DC/DC, THT, 2W, Dual Output
  • +20/-5V & +15/-3V asymmetric outputs for SiC driver applications
  • Qualified with 65kV/µs @ Vcommon mode =1KV
  • +15/-9V asymmetric outputs for IGBT driver applications
  • Pot-core transformer with separated windings